2007.07.30 Monday
ステロイドが悪い薬という噂

先日、「なぜ、ステロイドが悪い薬であるかのような噂が広まったのでしょう?」と、アトピー性皮膚炎の患者さんから質問を受けました。
ステロイド剤とは、副腎皮質から分泌されるホルモンに似せた物質を人工的に作り出した薬剤であるため、妊娠中でも使用できるなど、他の薬剤に比べると安心して使用できる薬剤です。
特に塗り薬は体内に吸収されにくいため、飲み薬のような副作用はありませんし、海外ではドラッグストアなどに行けば誰でも簡単に手に入ります。
では、なぜ日本では「ステロイドは悪い薬」という噂が広まってしまったのでしょう?
十数年前に、某人気報道番組でステロイド剤の副作用についての特集があり、多くの反響を呼びました。
それが原因かどうかは分かりませんが、日本のマスコミは話の一部だけを抜き出し誇張して報道することで視聴率を得ようとする傾向にあるため、それに付け込んだ様々な民間療法(アトピービジネス)が誕生しては摘発されるという繰り返しが行われた時期がありました。
アトピービジネスが活発化した背景には、アトピー性皮膚炎が繰り返しやすく慢性化しやすい疾患であること、慢性的な痒みが想像以上のストレスをもたらしていることなどが関係していたと考えられます。
つまり、アトピー性皮膚炎が一生治らない疾患であるかのように患者さんの不安をあおり、ステロイドの塗り薬を使用するから治らないかのように錯覚させます。
そして、治療内容や使用薬剤などが不明確なまま「体質改善!」「脅威の○○療法!」「アトピーの根本治療!」などのタイトルで出版物や広告を出して、アトピー性皮膚炎で苦しむ患者さんに巧妙な戦略で売り込みを図るといった手口です。
もちろん、全ての民間療法がダメだという訳ではありません。
アトピー性皮膚炎には、人それぞれ様々な悪化要因があるため、一部の患者さんでは民間療法で症状が良くなっているのも事実です。
ところが、医学的根拠の無いアトピービジネスに振り回された結果、多くの患者さんがアトピー性皮膚炎を悪化させている現実を、順天堂大学で担当してきたアトピー専門外来を通して目の当たりにしてきました。
最近では、日本皮膚科学会から「アトピー性皮膚炎の治療ガイドライン」が発表(改訂)され、アトピー性皮膚炎という疾患について、あるいはステロイド剤についての正しい知識を持った患者さんが増えてきました。
しかし、どこから聞いた噂であるかも分からないまま、「ステロイドって良くない薬だと聞きました」という患者さんが、時々来院されているのも事実なのです。
上の写真は、北海道・富良野で撮影したものです。(撮影:住吉孝二)