2013.10.22 Tuesday
プロトピック軟膏によるアトピーの寛解維持療法
約15年前までは、顔面のアトピー性皮膚炎に対して、ステロイド外用薬が治療の中心でした。
顔面は、ステロイド外用薬の吸収率が非常に高いため、副作用が顕著に現れる部位です。
そのため、基本的に弱いランク(4群:ミディアムまたはマイルドまで)のステロイド外用薬しか使用することができず、症状が軽快してきたら使用量を減らしていく必要があります。
ところが、ステロイド外用薬の使用量を減らしていくと、どうしてもアトピー性皮膚炎の症状が再燃しやすいため、減量が難しいという状況がよくありました。
そんな中で登場したプロトピック軟膏は、顔から首におけるアトピー性皮膚炎のスタンダードな治療薬として定着しました。
プロトピック軟膏は、中等度のランク(3群:ストロング)のステロイド外用薬と同等の強さがあるにも関わらず、ステロイド外用薬で問題とされている副作用(皮膚が薄くなるなど)がみられないという大きな利点があります。
その一方で、ステロイド外用薬ほど即効性が無く、初めて使用した約80%(小児用では約50%)の人に1週間程度の刺激感(ヒリヒリ感や灼熱感)を伴うという欠点があります。
このように、ステロイド外用薬とプロトピック軟膏には、それぞれ異なった特徴があります。
それぞれの利点や欠点を考慮すると、赤みや痒みといった湿疹症状が強い状態には、まず即効性のあるステロイド外用薬の使用が効果的と言えます。
そして、湿疹症状の改善に伴って、徐々にプロトピック軟膏に変更していくのが望ましいと考えられます。
治療の最初の段階で、寛解(かんかい:症状の軽快あるいは消失)を目指して行う強い治療を寛解導入療法と呼びます。
そして、その後の再燃・再発を防ぎ、寛解状態を保つ目的の治療を寛解維持療法と呼んでいます。
プロトピック軟膏は、寛解導入療法として使用するだけでなく、寛解維持療法として継続するのに適していると言えます。
ステロイド外用薬の主成分は、分子量が約450〜500と小さいため、皮膚炎が無くバリア機能も保たれている皮膚からでも吸収されてしまいます。
一方、プロトピック軟膏の主成分であるタクロリムス水和物は、分子量が822と大きいため、皮膚炎が改善してバリア機能が保たれている皮膚からは、ほとんど吸収されることがありません。
そこで、アトピー性皮膚炎の症状が寛解している顔面〜頸部に対して、週に1〜3回くらいプロトピック軟膏の外用を継続していくと、軽微な皮膚炎が再燃・再発した部位にはタクロリムス水和物が吸収されますが、皮膚炎が改善してバリア機能が保たれている皮膚からは吸収されず、基剤のワセリンのみを外用しているのと同じような状況になります。
つまり、湿疹症状が改善してからもプロトピック軟膏の外用を適度に継続していくことで、アトピー性皮膚炎の再燃・再発を予防し、良い状態を保つことができるという訳です。
このように、プロトピック軟膏による寛解維持療法を行うことで、ステロイド潮紅などの副作用を心配しながら、顔面に頻繁にステロイド外用薬の使用を繰り返すことは少なくなります。
さらに、アトピー性皮膚炎に特徴的な、口唇の炎症後色素沈着(アトピー性口唇メラノーシス)や頸部の炎症後色素沈着(さざ波様色素沈着)の悪化を防ぐことも期待できるでしょう。
なお、妊娠中や授乳中の方はプロトピック軟膏の使用を避けるようにしてください。
上の写真は、住吉皮膚科の近くで撮影した赤トンボです。
(撮影:住吉孝二)
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