2020.07.01 Wednesday
アトピーの新薬「デルゴシチニブ軟膏」について
2020年6月24日から、アトピー性皮膚炎の新しい外用治療薬「デルゴシチニブ軟膏」(商品名:コレクチム軟膏)が処方できるようになりました。
約20年前に「タクロリムス軟膏」(商品名:プロトピック軟膏)が登場し、ステロイド外用薬が中心であったアトピー性皮膚炎の治療が大きく変わりましたが、それ以来の新しい外用薬ということになります。
デルゴシチニブは、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬で、JAKファミリーの全てのキナーゼ(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)を阻害し、免疫細胞の活性化を抑えます。
JAK阻害薬は、内服薬としては、すでに関節リウマチや潰瘍性大腸炎の治療薬として使用されていますが、外用薬として使用されたことはありませんでした。
「デルゴシチニブ軟膏」は、2020年1月に世界に先駆けて日本で承認された、アトピー性皮膚炎の治療薬ということになります。
以下に、タクロリムス軟膏との違いを含めた利点・欠点について説明いたします。
使用方法はタクロリムス軟膏とほぼ同じで、1回最大5gまで、12時間程度あけて1日最大10gまで使用できます。
タクロリムス軟膏は、顔から首におけるアトピー性皮膚炎のスタンダードな治療薬として定着していますが、初めて使用した約80%(小児用では約50%)の人に1週間程度の刺激感(ヒリヒリ感や灼熱感)を伴うという欠点がありました。
ところが、今回登場した「デルゴシチニブ軟膏」には、このような刺激感が無いため、今までタクロリムス軟膏の使用を断念しステロイド外用薬のみに頼っていた人でも、スムーズに使用できるかも知れません。
また、デルゴシチニブは分子量が310と小さいため、分子量が822と大きかったタクロリムス水和物と異なり、皮膚への透過性が高いと考えられます。
そのため、タクロリムス軟膏では顔にしか効果の実感がなかった人でも、今回の「デルゴシチニブ軟膏」であれば、腕や体などでも効果の実感が得られる可能性があります。
ただし、すでに内服薬で使用されているJAK阻害薬では、悪性腫瘍の発現が報告されているため、1日に10gまでという使用量の制限をしっかり守る必要があります。
また、タクロリムス軟膏と同様に、びらん面や粘膜への使用、リント布に亜鉛華軟膏といった古典的外用薬の貼付、密封療法は経皮吸収が強まる可能性があるため行ってはいけません。
なお、同一部位へのタクロリムス軟膏との併用や、シクロスポリン(商品名:ネオーラル)やデュピルマブ(商品名:デュピクセント)といった全身療法との併用は、使用経験が無く安全性が確認できていないため、避けておくべきであると考えられます。
16歳未満の小児や、妊娠中あるいは授乳中の方も、安全性が確認できるまではデルゴシチニブ軟膏の使用を避けるようにすべきでしょう。
アトピー性皮膚炎に対しては、現在も様々な薬剤の研究・開発が進んでおり、今後さらに治療の選択肢が増えていくものと考えられます。
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